スポーツ関節治療センター

前十字靭帯損傷

前十字靭帯とは

靱帯とは骨と骨とを結ぶ”シートベルト”として存在しており、関節の動きを安定化させる役割があります。

前十字靭帯(Anterior Cruciate Ligament: ACL)は脛骨前方から大腿骨外顆内側に向かって斜めに走行する靭帯で、脛骨の前方亜脱臼を抑制する事が主な役割であり、下腿の内旋制御にも大きな役割を担っています。

股関節や足関節と異なり、膝関節は骨形態上適合していないことから、前十字靱帯をはじめとする靱帯や半月板などの軟部組織が関節の安定性に非常に大きく寄与しています。

前十字靭帯損傷とは

1.原因

前十字靭帯はスポーツで損傷する事が多く、ラグビーのタックルなどで直接膝に力がかかるパターン(接触型)とバスケットボールやサッカーなどでステップを切った時などに、他者と接触することなく膝が崩れて損傷するパターン(非接触型)に大別することができます。

しかしながら、スポーツ以外で損傷することも稀ではなく、学校のスポーツテストで行われる反復横跳びや、自転車での転倒、電車でバランスを崩した時に受傷した例もあります。

交通事故やスノーボードでの高所からのジャンプ着地など、より大きな力が働いて受傷する際は、他の靭帯損傷を合併(複合靭帯損傷)することや骨折を合併することもあります。

カッティング動作を伴う特定のスポーツでは女性の方が発生頻度は高いと報告されています。

2.症状

新鮮例では靱帯断裂に伴い関節内血腫を生じ、関節腫脹を認める事が多いです。腫脹による疼痛の為、急性期は可動域制限を認め、また歩行が困難になる事もあります。膝関節血腫が少ない場合は疼痛があまりない事もあります。

関節腫脹が軽減してくる約1ヶ月程度で痛みが無くなり、半月板や関節軟骨損傷が軽微な場合は日常生活レベルではほぼ無症状になりますが、損傷した前十字靭帯が治癒したわけではありません。

亜急性期から慢性期には、膝の不安定感を自覚し、実際にガクッと膝崩れが起こる、踏ん張りが効かないといった症状があります。また、半月板や軟骨損傷由来の疼痛を認める事もあります。繰り返す膝崩れにより半月板の損傷範囲が大きくなると、転位した半月板が関節内に引っかかり(嵌頓し)膝が完全に伸びなくなるロッキングと呼ばれる症状が起きることもあります。

前十字靭帯が断裂したままスポーツ活動を継続すると、繰り返す膝崩れにより半月板損傷・軟骨損傷が発生・進行し、若年であっても関節症変化に至り、痛みにより日常生活に支障が出る危険性が高くなります。

3.検査

受傷機転の聴取、徒手検査(脛骨の前方不安定性を評価するLachmanテストや回旋不安定性を評価するN-テストやpivot shift テストなど)、急性期であれば膝関節血腫の有無、そしてMRIなどの画像検査によってほぼ100%診断は可能ですが、単純レントゲン写真の所見には乏しいため見逃される事も稀ではありません。関節鏡を用いて診断を行う事は、検査といえども侵襲の伴うものであり一般的ではありません。

4.治療

関節内靭帯である前十字靭帯は内側側副靭帯のような関節外靭帯と比較して治癒能力が極めて低いため手術療法が必要になります。

サポーターの装着のみでは安定性の獲得効果は不確実で、前十字靭帯が治癒する見込みも高くはありません。かつては手術成績が安定したものではなかった為、スポーツをしない人には手術は必要ないと言われていました。しかしながら、多くの基礎・臨床研究により手術の方法やリハビリ方法に改良が重ねられ、手術により良好な成績が獲得できるようになった為、近年ではトップレベルのアスリートだけでなく、レクレーションレベルのスポーツ愛好家をはじめ、スポーツをしない方にも手術が勧められています。

手術するタイミングですが、受傷後1ヶ月程度は関節内血腫により関節腫脹をきたし可動域制限が残存していますので、一般的には可動域が回復する受傷後1か月以降に行います。

受傷してからどの時期まで待機できるかについては、受傷後半年以上経過すると二次性の半月板損傷を来すリスクが高くなると報告があり、我々は受傷後半年以内の手術を推奨いたします。

手術

手術方法としては、断裂した靭帯の縫合術の成績は安定したものではなく、現在は損傷されたACLを作り直す再建術が全世界的にコンセンサスを得た方法です。様々な工夫や研究により、現在我々が実施している再建術では、正常ACLの形態に近い状態を再現することが可能になっています。

手術は関節鏡という内視鏡を用いて行いますが、関節鏡を用いる最大のメリットは、傷が小さく、患者さんにとって侵襲が少ないこと挙げられます。高性能のカメラで膝の中を鮮明にそして拡大して観察できる為、正確な手術を行うためには関節鏡の使用は必須と言えます。

1.移植材料について

再建術では損傷を受けた靭帯を患者さん自身の腱を使って靭帯を作り直します。かつては人工靱帯も用いられていましたが、体内での劣化が激しいため、現在では用いられていません。骨付き大腿四頭筋腱、骨付き膝蓋腱、ハムストリングと呼ばれる膝を曲げる腱である半腱様筋腱(+薄筋腱)のいずれかを使用します。それぞれの材料には特徴がある為、患者さんのアクティビティレベルに応じて材料を決定します。

これまで骨付き膝蓋腱と多重折りにしたハムストリング腱を使用した手術後の良好な治療成績が多く報告されています。近年では骨付きの大腿四頭筋腱を使用した良好な成績の報告、他の移植腱にはないメリットも明らかとなってきており、当院では積極的に骨付き大腿四頭筋腱を使用しています。

2.移植腱の設置位置

良好な治療成績を獲得するためには“解剖学的”ACL再建が必須になります。従来行われていた“非解剖学的”ACL再建では可動域制限が残存する膝、硬い膝、不安定な膝となります。可動域制限をきたさず、伸展位(膝が伸びた位置)で再建靱帯が緊張(きちんとシートベルトが作用する)する解剖学的ACL再建術では、当然と言えば当然ですが、元々ACLが付着していた場所に正確に移植腱を設置する事が必須となります。ACLの付着部位置については、我々の基礎研究により組織学的に明らかになっており、関節鏡視下に大腿骨・脛骨のACL付着部を同定し、骨孔を作成します。

骨付き大腿四頭筋腱や骨付き膝蓋腱を用いたACL再建では、かつてはハムストリング腱を用いたACL再建と同様に円形の骨孔を作成していましたが、9~10mm程度の大きな穴となることが問題でした。しかし現在では、採取した骨と同型の長方形型の骨孔を作成します。これにより解剖学的付着部内により小さな骨孔を作成することが可能になった上、骨孔と移植骨との間に間隙がないことでも恩恵を受けることができるようになりました (早期の骨孔-骨片間の骨癒合など) 。尚、ハムストリング腱を使用した術式とは異なり、移植腱は1本ですが、正常ACLの繊維配列を模倣できる方法となります。(解剖学的長方形型骨孔ACL再建術 図1参照)

剖学的長方形型骨孔ACL再建術 図1

ハムストリング腱を用いたACL再建では5~6mm程度の円形の骨孔を大腿骨側に2個、脛骨側に2ないし3個作成し、2本の移植腱をトンネル内に通して固定します。これにより複数の束から構成される正常ACLに再建靱帯を近似させる事が可能になります。(解剖学的二重束/三重束ACL再建術 図2参照)

骨孔(トンネル)を作成した後は、移植腱をトンネルに通し、チタン性の金属もしくは生体吸収性の固定材料で移植腱を固定します。

解剖学的二重束/三重束ACL再建術 図2

リハビリ

再建された前十字靭帯は患者さんの生体内から採取した組織を移植したものですが、一度血行が断たれた移植腱は移植後数週間で細胞は壊死し強度が当初の数分の一まで低下します。そこから時間をかけて組織の再構築が進んでいき成熟するという過程を踏み、力学的強度が正常の前十字靭帯に近づくと考えられています。この過程はあくまでも動物実験の結果ですが、再建靭帯の治癒過程に応じた適切なリハビリプログラムを行わないと靭帯の再構築過程を妨げたり、その結果として靭帯が緩んだり再断裂してしまう事にもなりかねません。再建した移植腱の治癒は決して早いものとは言えず、元のスポーツへの復帰には一般的に約8〜9ヶ月を要します。全てのリハビリ内容をここで細かく述べる事は難しいですが、術後経過の全体像と、リハビリプログロムの一端を紹介いたします。

手術直後のギプスや装具による長期間の固定は、膝関節の拘縮(関節が硬くなる事)につながります。拘縮による可動域制限は機能障害のみならず痛みの原因になる為、現在では術直後から長期間にわたり装具を装着して膝を固定する事は少なくなってきており、早期から可動域訓練を開始します。前十字靭帯再建手術時に半月板の修復を同時に行う時は、体重をかけて歩行するまでしばらく間を空けることがありますが、前十字靭帯再建単独手術の際は、硬性装具を装着の上、術翌日からの荷重歩行を許可しております。尚、当院での術後の入院期間は平均約5日となっています。

術後早期は関節を固定した状態で行うisometric exercise(等尺性筋力トレーニング)から開始し、その後に自体重でのスクワットやランジなどを開始します。地面に足をつけずに行うOKC (open kinetic chain)と呼ばれるトレーニング方法の一部は移植腱に負荷がかかるものがあるので注意が必要です。2.5〜3ヶ月をかけてランニング可能なレベルまで筋力を戻していきます。その後は復帰に向けて健側膝(手術をしていない膝)の筋力の約90%を目指して負荷を上げていきます。

ジョギングは筋力の回復状況次第ですが、2.5〜3ヶ月で開始します。4ヶ月が経過するとジャンプ動作もプログラムに入ってきます。ダッシュやジャンプは術後5ヶ月程度から、カッティング動作といった運動種目に応じたスキル練習トレーニングは術後6ヶ月程度で開始します。また、再断裂しやすい不良姿勢の修正も復帰に向けて必要ですので、同時に行っていきます。術後のリハビリや復帰に際しては、主治医や担当理学療法士の指導を守ることが再断裂のリスクを下げる観点からも非常に重要です。

院長 スポーツ整形外科

米谷泰一

医学博士
日本整形外科学会 専門医
日本スポーツ協会 公認スポーツドクター
NTTドコモ レッドハリケーンズ チームドクター
日本テニス協会 医事委員
関西テニス協会 スポーツ医・科学委員
大阪府テニス協会 理事・医科学委員長

スポーツ整形外科

草野雅司

日本整形外科学会 専門医
日本整形外科学会 認定スポーツ医
日本体育協会 公認スポーツドクター
B.LEAGUE大阪エヴェッサ サポートドクター