大阪中之島・未来医療国際拠点の整形外科クリニック

大阪中之島整形外科

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再生医療&関節温存センター

HTO(骨切り手術)

変形性膝関節症に対する関節温存手術

現在、変形性膝関節症に対する外科的治療の中心は人工関節置換術です。日本では年間約1万件(2019年)の手術が行われており、高齢化の影響でその数は年々増加しています。この手術では広範囲に損傷した膝の関節面を取り除き、金属のインプラントで置換します。一方で、関節を人工物で置換しない膝周囲骨切り術という関節温存手術による治療もこの十数年で症例数が増加しています。

膝周囲骨切り術とは

変形性膝関節症が進行すると、軟骨損傷や半月板損傷により膝関節を形成する大腿骨(太ももの骨)と脛骨(すねの骨)にも変形が生じ、両者の位置関係が正常からずれていきます。これを下肢アライメント異常と言います。

変形性膝関節症の90%近くを占める内側型の変形性膝関節症(膝の内側の軟骨が損傷するタイプ)を例にしますと、

膝周囲骨切り術とは

体重をかけて立った状態で撮影したレントゲン写真において、股関節の中心と足関節の中心を結んだ荷重軸と呼ばれる直線(赤線)が正常膝では膝中央を通過しているのに対して、関節症膝では膝の内側を通過しています(いわゆるO脚変形と呼ばれるアライメント異常)。正常ではバランスよく荷重を膝の内側・外側で受けているのに対して、荷重軸が内側を通過すると、病変部である内側に過剰に荷重負荷がかかりますので、疼痛を生じます。

膝周囲骨切り術はこのアライメント異常に対してアプローチする術式です。
アライメントを是正することで、病変部に偏っていた荷重を分散させて症状改善を図ります。アライメント変化をもたらした原因である骨の変形を矯正します。

膝周囲骨切り術の実際

膝周囲骨切り術の中で、最も多いのが内側型の変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術(HTO)になります。高位脛骨骨切り術にも様々なタイプが存在しますが、ここでは当院で施行している術式を2つ紹介させて頂きます。

1.内側楔状開大型HTO

すねの内側から外側に向けて骨切りを行います(図1の点線部が骨切りのライン)。外側をヒンジとして内側を開大させます(図2)。開大部には人工骨を充填した上で、チタン製の専用固定具にて固定します(図3)。開大する大きさについては、術前の変形に応じて正確に計測を行った上で決定します。
切除する量についても同様。

2.外側楔状閉鎖式HTO

すねの外側から内側まで骨切りを行なった上(図1点線部)、骨を切除します(図1色付き部)。骨を接触させるように骨切除部は閉鎖します。チタン製の専用固定具にて固定します(図2)。切除する骨の量については、術前の変形に応じて正確に計測を行った上で決定します。


術式は関節症の程度により決定します。変形が強い場合は外側楔状閉鎖式を用います。いずれの術式においても上述した荷重軸(太線)は内側から外側に移動し、病変部での荷重負荷は減少して痛みの軽減につながります。

手術の特徴

関節温存手術である骨切り術では、手術の最初に関節鏡を用いて関節内の処置を行いますが、関節に大きな侵襲を加える事はしません。その為、術後に膝の可動域(曲げ伸ばしの角度)が低下する事はほとんどありません。正座の可否ですが、術前に可能であればほとんどの方が術後も可能であり、制限はありません。ただ、大きな可動域改善も期待できないのも事実です(関節内に溜まっていた水が、手術により少なくなる事はあり、その際は曲げやすさを感じる事もあります)。

スポーツへの復帰が期待できる事は、関節温存手術である骨切り術の強みと言えます。骨切り術を受けた患者様(平均年齢68歳)の元のスポーツへの復帰率は90%超えたとの報告があります(Otoshi et al, Journal of Orhtopaedic Surgery and Research, 2022)。この報告では70歳以上の患者様でもゴルフやウォーキングなどの低強度のスポーツには高率に復帰されている事を合わせて報告しています。我々の過去の手術例からも同様のことは言えます。近年ではスポーツ愛好家の人口が増加しており、中高年から高齢になっても継続している方が非常に多いです。しかし、膝痛の為に断念せざるを得ず、非常に失望されている患者様も少なくありません。高強度のスポーツは難しい事もありますが、スポーツ愛好家の患者様にとっては良い手術と言えると思います。

以前は骨切り術は若年の方を中心に行われており、一般的に高齢になれば骨切りで対応ができる変形であっても人工関節置換術が行われていました。しかし、高齢であっても術後成績が良好であることが報告されるに従って、現在では高齢であっても骨切り術を希望される方には施行しております。人工関節置換術には人工関節の特徴がありますので、ライフスタイルにあった方法を選んでもらえればいいかと考えます。

変形性膝関節症の評価

レントゲン写真、MRIを撮影して病期、変形の程度を評価します。初期から進行期が骨切り術のいい適応ですが、末期でも損傷部位が全体に及んでいなければ骨切り術は可能です。変形があっても痛みがなければ必ずしも手術をする必要はないと考えています。また、膝の痛みは必ずしも変形が原因というわけではありません。半月板の加齢変化による損傷・断裂も原因になることがあります。その際は骨切り術ではなく、関節鏡による低侵襲手術のみで対応が可能な場合もあります。

喫煙による合併症リスク

タバコに含まれるニコチンは、骨切り部の治癒(骨癒合)にとっては不利に働きます。末梢組織の血管の収縮作用や血流の低下により傷の治りにも影響を与えます。また、白血球への酸素供給減少により術後の総武感染にも影響があることが知られています。骨切り術に限ったことではないですが、喫煙は合併症リスクが上昇します。喫煙者および喫煙歴がある人は骨切り術が出来ないわけでは決してありませんが、術前から治癒するまで(できれば一生)禁煙して頂くことが必須となります。禁煙により筋骨格系手術の合併症が有意に低下したというデーターも報告されています。

術後のリハビリテーション

術後は1~2週間程度患部を固定した後に歩行訓練を開始します。この手術では設計図に従って骨を切る、つまり人工的に骨折を作る手術になりますので、荷重開始当初は歩行時に痛みがあります。(術前の痛みとは異なります)よって、退院時は杖を使用することが多いです。しかし、時間の経過とともに骨癒合が進行し、それにつれて痛みや違和感は軽減していきます。

変形性膝関節症の多くの患者様は痛みをかばって歩行していることが多く、大腿部を中心とした下肢の筋力低下を認めていることが少なくありません。手術後、低下した筋力回復を目指したリハビリテーションを行います。

術前には、疼痛を避けるために健側の下肢(痛くない方の下肢)に重心をかけて歩行することが多いです。これは無意識に行われていることもあり、痛みを避けるための本能的な動きと言えます。この歩行では、痛い方の下肢は健側下肢から離して歩行します(股関節外転位)術後もこの癖が残る事がありますが、骨切り部の負荷軽減のためにも、リハビリテーションにより歩容改善を図ります。その他、痛みの原因となりうる膝蓋骨や膝蓋下脂肪体の滑走性低下に対しても、積極的にアプローチしていきます。

リハビリテーションにおいて重要な事は、理学療法士任せにならずに患者様自身が積極的に自ら取り組むことと考えていますので、自ら継続できるリハビリを目指して我々は患者様に指導およびサポートを行います。もちろん、患者様一人ではできないリハビリ運動やトレーニングもありますので、その点は理学療法士にお任せください。

その他の骨切り術

膝周囲骨切り術の中で、最も多いのが内側型の変形性膝関節症に対する高位脛骨骨切り術 (HTO)になりますが、それ以外の骨切り術も実施しています。

外側型変形性膝関節症に対する遠位大腿骨内反骨切り術は外反膝いわゆるX脚に対して行います。HTOとは異なり、大腿骨で骨切りを行います。下図で黄色部を切除し、プレートにて固定します。

その他の骨切り術
その他の骨切り術

膝蓋大腿関節と呼ばれる膝関節における前方の関節(膝蓋骨と大腿骨で形成)での関節症に対しても脛骨粗面前内方移行術という骨切り術を実施しています。

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