再生医療&関節温存センター
APS(自己血清蛋白質注射)(次世代PRP)
再生医療の意義
変形性関節症(OA)は、関節の軟骨がすり減り痛みや腫れを引き起こす病気で、全身の関節に発生する可能性があり、特に膝や股関節などの荷重関節に多く見られます。OAによる痛みや生活の質(QOL)の低下は、40歳以上の780万人に影響を及ぼしているとされます。標準的な治療として非ステロイド性抗炎症剤(NSAIDs)や関節内注射(ヒアルロン酸やステロイド)が用いられますが、これらの方法で症状が改善しない場合、再生医療として自家多血小板血漿(PRP)の投与があります。これは患者自身の血液から得た成分を使用し、関節痛の抑制や軟骨組織の炎症・分解を抑える目的で関節内に投与される方法です。この技術は患者に対する侵襲が低く、アレルギー反応のリスクも非常に少ないため、安全な治療オプションとされています。
1.次世代PRP―APS
PRP(多血小板血漿)は、血液中の血小板を濃縮して作られ、血液1μLあたり10~40万個の血小板を含みます。血小板は止血や治癒過程で重要な役割を担い、成長因子を放出して組織修復を促進します。PRPは関節腔内に投与されると、抗炎症性サイトカインと成長因子が炎症と軟骨破壊のバランスを整え、治癒能力を最大限に引き出します。含まれる主な成分には炎症性サイトカイン(IL-1、TNF-α)、軟骨分解酵素(MMP-13)、抗炎症性サイトカイン(IL-1ra、sIL-1Rll、sTNF-Rl、sTNF-Rll)、成長因子(VEGF、FGF、TGF-β1、TGF-β2、PDGF-AB、PDGF-BB)があり、これらは軟骨細胞の増殖、血管形成、細胞外マトリックスの形成を促進し、炎症を抑制することで関節の健康をサポートします。
特にAPSは、傷を治す過程に重要な役割を果たす白血球を多く含むことに加え、抗炎症作用をもつ成長因子が高濃度に濃縮されたものとされます。通常のPRPのもつ成長因子の作用に加え、抗炎症因子の作用によって痛みを抑える効果が強いと考えられています。
2.治療の原理
初期の変形性関節症(OA)は、関節内の抗炎症性と炎症性サイトカインの不均衡により軟骨破壊が進みます。主にIL-1とTNF-αが関与し、これらはMMPの産生を促して軟骨分解を加速させます。PRP治療は、血小板からの成長因子放出により、この不均衡を修正し疼痛を軽減します。特にAPS(Autologous Protein Solution)製法で作られたPRPは、抗炎症作用をもつ成長因子を高濃度に含むため、痛みの抑制に効果的であるとされ、膝や股関節をはじめ、多様な関節に適用可能と考えられています。
3.APS再生医療技術の安全性
自家多血小板血漿(PRP)の関節内注入は、変形性膝関節症をはじめとする治療において安全性が高く、リスクが少ない治療法とされています。実際の臨床試験では、重大な有害事象は報告されておらず、軽微な副作用も速やかに改善されました。PRP製造キットについても、様々な製品がありますが、基本的な性質や効果に大きな違いはなく、安全性が確認されています。ヒアルロン酸投与との比較研究でも、PRPの安全性は同等であることが示されています。これらの点から、PRP治療は関節疾患に対する効果的かつ安全な選択肢であると考えられます。